常染色体劣性多発性嚢胞腎について autosomal recessive polycystic kidney disease (ARPKD)

和歌山県立医科大学小児科
中西浩一

1 はじめに

(ア)常染色体劣性遺伝とは

常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)は、2種類ある多発性嚢胞腎のうち、常染色体劣性遺伝を示すものです。ほとんどの遺伝子は両親から受け継いで一対となっており、これを対立遺伝子と呼びます。常染色体劣性遺伝とは対立遺伝子の両方に変異(遺伝子の変化)があって発病する遺伝形式のことで、片方の遺伝子のみに変異がある状態では発病せず保因者になります。

(イ)発症機序

染色体6p21.1-p12に存在するPKHD1(polycystic kidney and hepatic disease 1)の遺伝子変異によります。多彩な臨床像にもかかわらず1つの遺伝子が原因です。この遺伝子産物はファイブロシスチンまたはポリダクチンと呼ばれ、細胞膜を1回貫通する受容体様蛋白と推定されています。現時点において、PKHD1変異がARPKDを引き起こす発症機序の詳細は不明です。

2 診断基準

(ア)一般的な診断方法

超音波検査が最も簡便で診断に有用です。典型的超音波検査所見と先のお子さんが本疾患であることが判明していれば診断は確定的です。両親が近親婚であることも診断に重要な情報ですが、我が国では近親婚の頻度は少なく近親婚でなくても発病することがあります。両親に腎嚢胞が存在しないことも重要ですが、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の腎嚢胞が遅れて出現する場合があり、両親の年齢が30歳以降においてこの情報の意義が高まります。

(イ)除外診断を要する場合

腎に多数の嚢胞を認める疾患は多数存在し、そのいずれもが鑑別診断(区別が必要な疾患)となります。

(ウ)遺伝子診断

原因遺伝子が発見されており、遺伝子を直接調べる方法による診断も可能ですが時間と費用の負担が大きく、本邦の現状では困難です。出生前検査においても遺伝子を直接解析することは技術的に可能ですが、本邦の現状では困難です。

(エ)診断基準

ARPKDの診断基準(表1)
1に加えて2の一項目以上を認める場合にARPKDと診断する。
1 皮髄境界が不明瞭で腫大し高輝度を示す典型的超音波画像所見
2 a 両親に腎嚢胞を認めない、特に30歳以上の場合
b 臨床所見、生化学検査、画像検査などにより確認される肝線維症
c ductal plateの異常を示す肝臓病理所見
d 病理学的にARPKDと確認された同胞の存在
e 両親の近親婚

確定的な診断基準は国際的にも確立されていません。現在国際的によく使用されている診断基準の邦訳を表1に示します。

3 疫学

北米では1990年以降、全国的症例登録がなされています。生後24時間以内に死亡する症例の把握は困難であり、正確な出生頻度や死亡率の評価は不可能ですが、推定される頻度は出生10,000~40,000人に1人です。我が国における頻度が欧米と同じかどうかは不明です。片方の遺伝子にのみ変異を持つ人の頻度は約70人に1人と報告されています。男女差はありません。以前は乳児型と呼ばれることがありましたが、実際は乳児期以降においても発見されるので、この言葉は使用されなくなりつつあります。

先のお子さんが本疾患であった場合、次のお子さんが本疾患である確率は4分の1です。ARPKDの家系において、発病していないお子さんが変異遺伝子の保因者である確率は3分の2です。遺伝子変異の保因者であってもパートナーが変異を保有しなければ、そのお子さんが発病する心配はありません。

4 臨床的特徴、病理など

(ア)臨床的特徴・管理の実際

妊娠第2期にARPKDの徴候が超音波検査で明らかになることもありますが、通常は胎生第30週までは明らかではありません。本疾患の嚢胞は通常小さく2 mm未満でマイクロシストと呼ばれます。超音波検査ではぼこぼことした嚢胞像ではなく全体にぎらぎらした感じになるのが特徴的であり、診断に重要です。目で嚢胞と確認できるものはマクロシストと呼びますが、直径2 cm以下の場合が多いです。一方、一部にADPKD様のぼこぼことした大きな腎嚢胞を示す症例もみられます。

大部分のARPKD患者さんは新生児期に症候を示します。肺の低形成を伴うお子さんはしばしば出生直後に死亡し、Potter症候群と呼びます。胎児超音波検査によりARPKDが疑われれば、出生後の管理を念頭に置いて新生児集中治療室(NICU)への入院が遅滞なく行えるように準備する必要があります。生まれつき腎機能が廃絶している多くの患者さんでは両方の腎臓を摘出するとともに腹膜透析カテーテルを挿入し、腹膜透析を施行する必要があります。腹膜透析がうまく行えない場合、血液透析も選択せざるをえません。一方、乳児期およびそれ以降、腎の拡大あるいは肝脾腫による腹部膨満により発見されることもあります。腎臓の老廃物を捨てる機能などの障害が軽度であっても、大部分の症例に尿を濃くする能力の障害があり、脱水に注意が必要です。

(イ)病理組織所見

ARPKDにおいては、腎臓の中の集合管という部分の拡張と、肝臓の中の胆管という部分の異常が特徴です。

5 合併症とその対策

(ア)高血圧

高血圧は乳児およびそれ以降の小児期にしばしばみられ、唯一の症候のこともあります。腎機能が正常な患者さんにもみられ、最終的にはほとんど全ての小児患者さんに認めます。高血圧を積極的に治療しなければ、心肥大、うっ血性心疾患へ進行する可能性があります。

(イ)先天性肝線維症

ARPKDでは先天性肝線維症と呼ばれる肝臓の異常が存在します。生命予後の改善と腎不全管理の進歩により、肝病変が問題となる症例が増加しています。先天性肝線維症では門脈圧亢進症と呼ばれる状態が問題となります。食道静脈瘤、肝脾腫などに注意が必要で、食道静脈瘤破裂、脾機能亢進症による血小板減少、貧血、白血球減少などをきたします。超音波検査による観察が非侵襲的で有用です。明らかな肝病変を示す患者さんでは、細菌性胆管炎が致命的になりえる合併症のひとつであり、生後数週の患児の報告もあります。

6 治療

(ア)根本的治療

根本的治療は確立されておらず、個々の症例に応じた支持・対症療法が中心となります。小児、特に乳幼児の末期腎不全管理が必要なことが多く、しばしば治療困難です。

(イ)進行を抑制する治療

  1. 降圧療法
    ADPKDと同様に高血圧の治療が重要です。
  2. 飲水の励行
    ADPKDの指針において記載されているとおり、病態的には有効かもしれませんが、腎不全が存在する小児では実施困難です。無尿の場合は、不可能です。

(ウ)合併症に対する特殊治療

  1. 腎移植
    末期腎不全の症例では、可能であれば早期の腎移植が望ましいです。
  2. 肝移植
    必要により肝移植または肝腎同時移植が適応となりますが、限られた施設でしか実施できません。

7 予後

重症肺低形成を伴う新生児以外は長期生存が可能であることが明らかになっていますが、今なお予後の評価は困難です。生後1か月間生存した症例について、生後1年の腎生存率が86%、15年で67%との報告があります。北米における1990年以降に出生した153例の解析では、生後1か月間の死亡率が最も高く、全死亡症例36例中21例(58%)がこの期間に死亡しています。生後早期の新生児・乳児の疾患管理の改善と末期腎不全治療の進歩により、更に予後が改善されることが期待されます。

8 遺伝相談

ARPKDの診断が確定あるいは推定される場合、遺伝相談の対象となります。