病態機序を詳しく知りたい人のために

ADPKD はPKD1またはPKD2遺伝子の変異が原因です。以前はこれら以外にも関与する遺伝子(PKD3)が想定されていたが、現在では否定的です。

PKD1は第16番染色体短腕のp13.3, PKD2は第4番染色体長腕q21-23に位置します。

図1は、遺伝子が作る蛋白を示しています。PKD1とPKD2の遺伝子産物である蛋白 PC1(Polycystin 1)とPC2(Polycystin 2)はTRPP (Transient Receptor Potential Channel for Polycystin) subfamilyに属し、Caチャンネルです。TRPPは外界の物理的刺激(光、熱、触覚、味覚など)を生物が感知するためのチャンネルとして位置づけられています。PC1とPC2は腎臓、肝臓、膵臓、乳腺の管上皮細胞、平滑筋と血管内皮細胞、脳の星状細胞に存在します。PCの局在は腎臓上皮細胞、血管内皮細胞、胆管細胞等の繊毛に存在する事が判ってきました。

腎臓では尿細管腔の内側に存在する繊毛(図2)は、皮質部集合尿細管のIntercalated細胞以外の尿細管細胞に存在しています。繊毛は尿細管液の流れに反応して屈曲します。屈曲によるshear stress(斜めにかかる力)によってPCや繊毛機能に関係するその他の蛋白は活性化され、PC2がCaチャンネルとして開き、細胞外から細胞質内にCaイオンを流入させます。細胞質内に流入したCaは更に細胞外と小胞体からCaイオンを細胞質内へ流入させ、細胞質内Ca濃度を高めます。繊毛機能に関係する蛋白をコードする遺伝子異常が嚢胞性腎疾患(多発性嚢胞腎以外にも腎臓に嚢胞ができる稀な先天性腎疾患がいくつか知られています)をもたらす事が明らかとなり、繊毛疾患(Ciliopathy)として概括されています。

PKD細胞ではPC機能異常により、尿細管上皮細胞のCa濃度は低値であることが判っています。細胞内Ca濃度が低下すると、サイクリックAMP(cAMP)を分解する酵素(ホスホディエステラーゼ、PDE)活性が低下し、細胞内cAMP濃度が高まります。その結果、cAMP依存性PKA(Protein Kinase A)機能が高まり、種々のシグナル経路(EGF/EGFR, Wnt, Raf/MEK/ERK, JAK/STAT, mTOR等)が活性化され細胞増殖が起きます。繊毛は細胞極性(尿細管構造形成)を保つ機能に関与しており、繊毛の蛋白異常によって細胞極性機能が障害を受け、細胞はチューブ状に整列せず、平面的に広がる結果、嚢胞が形成されると考えられています。またPKAはCFTR (Cystic Fibrosis Transmembrane Conductance Regulator)を刺激し嚢胞内へのCl分泌を高めます。Cl分泌に随伴して水分も嚢胞内に移動していきます(図3)。

腎尿細管(集合管)に存在するvasopressin (AVP)R2受容体はAVP(抗利尿ホルモン)の作用を受け、adnylcyclase (AC)及びcAMPを介して水透過性を高めます。身体に水分が不足するとAVPは上昇して、身体に水分を保持する方向に働きます。この過程は、正常な腎臓で起きている過程ですが、高まったcAMPは正常細胞では、細胞増殖をむしろ抑制しています。しかし多発性嚢胞腎細胞では、AVPによって高まったcAMPは嚢胞を増大させます。すなわち図3で示したように、細胞増殖とCFTRでのCl分泌が高まる結果、嚢胞は増大していきます。

参考資料

多発性嚢胞腎診療指針(2010年8月)はこちら